病院の差額ベッド代、設備だけで差別化できていますか?ホテル・航空業界に学ぶ病室づくりと収益改善
以前、入院セット(CSセット)や床頭台、Wi-Fi、テレビカードなどについて記事を書きました。
これらのサービスは、病院の収益契約としてだけでなく、有料個室や有料多床室の差別化にも関わるものです。
病院では、有料個室と一般個室、有料多床室と通常の多床室をどのように差別化するか、悩むケースも少なくありません。
通常は部屋の広さや設備などで違いを設けますが、患者から見れば、その違いが分かりにくいこともあります。
医療機関は、ホテルのように利益を最優先する業界ではありません。しかし、地域の需要に応じて有料病室の質を高めることは、患者満足度や家族の利便性向上につながり、結果として病院経営にも貢献します。
今回は、ホテル・航空業界のサービスを参考にしながら、有料病室の差別化と室料差額の収益管理について考えてみます。
1.室料差額は病院経営を支える収益源にもなる
室料差額収益は、病院の事業収益全体から見ると、それほど大きな割合ではないかもしれません。
私の経験では、事業収益の1.0~1.5%程度という水準が、一つの目安としてあります。ただし、これは全国平均を示すものではなく、病院の立地、病床構成、有料病室の割合、料金設定などによって大きく異なります。
一方で、新病院の開院や建て替えを契機に室料差額の料金体系を見直した結果、収益割合が高まり、経営改善につながった経験もあります。
新病院では減価償却費などの負担が大きくなりがちです。その時期に室料差額収益が増加することは、経営上の助けとなります。
例えば、有料個室が20床ある病院で、1日当たりの室料差額を2,000円見直し、年間の有料利用日数が5,000日あれば、
2,000円 × 5,000日=年間1,000万円
の増収となります。
もちろん、料金改定によって利用希望者が減少する可能性もあるため、単純に値上げすればよいわけではありません。
患者が追加料金を支払ってでも利用したいと思える環境を提供できているか。
この視点が重要です。
2.ホテル業界に学ぶ、有料病室の差別化
有料個室の差別化を考える際、参考になるのがホテル業界です。
ホテルでは、部屋の広さや眺望だけでなく、家具、アメニティ、通信環境、飲料サービスなどによって客室の価値を高めています。
病院でも同様の発想ができます。
例えば、次のようなサービスです。
- 入院セット・アメニティ: タオル、寝衣、日用品などを室料に包含
- テレビ・冷蔵庫: テレビカードや冷蔵庫利用料を別途徴収しない
- Wi-Fi: 高速通信や専用ネットワークの提供
- 飲料サービス: ミネラルウォーターやお茶などの提供
- 新聞・雑誌: 新聞配布や電子書籍サービス
- 家具: ゆったり座れる椅子、テーブル、収納家具
- 家族向け設備: ソファベッド、家族用の椅子やテーブル
- 生活家電: 電気ケトル、冷凍冷蔵庫、電子レンジなど
- 娯楽: タブレット貸出し、動画配信サービスなど
特に、入院セットやテレビ、冷蔵庫などは、一般病室では別途料金が発生していても、有料個室では室料に含まれているケースがあります。
このようなサービスを充実させる際には、関連する委託契約の見直しも必要です。
例えば、床頭台の運営事業者と交渉し、有料個室については病院側が一定の費用を負担することで、患者がテレビや冷蔵庫を追加料金なしで利用できる契約にすることも考えられます。
患者にとっては料金体系が分かりやすくなり、病院にとっては有料個室の付加価値になります。
3.航空業界に学ぶ、サービスの階層化
もう一つ参考になるのが航空業界です。
航空会社では、エコノミークラス、ビジネスクラス、ファーストクラスなど、利用者のニーズに応じて座席やサービスを差別化しています。
病院でも、一般病室と有料病室の間に、分かりやすいサービスの違いを設けることができます。
例えば、
- 専用ラウンジ
- コンシェルジュによる生活面の案内
- 家族が休憩できるスペース
- 充実した充電設備やUSBポート
- プライバシーに配慮した入退室管理
- 病室内の家具やアメニティの充実
などです。
特別室のオートロック化や、専用ラウンジの設置などは、安心感やプライバシーの向上にもつながります。
ただし、医療や看護の必要性に基づく対応に差を設けるのではなく、あくまで療養環境や生活上の利便性を充実させるという考え方が基本です。
また、オートロックについては、緊急時の職員の入室や避難、安全管理に支障がないことが前提となります。
4.実際の病院では、どこまで差別化しているのか
有料個室の差別化については、実際の病院の取り組みも参考になります。
例えば、東京慈恵会医科大学附属病院では、特別個室にリビング、ダイニング、ソファベッド、キッチン、電子レンジ、デスクなどを備えています。
さらに最上位の特別個室には、会議室兼応接室や秘書室まで設けられています。
ここまで充実した設備は、一般的な病院がそのまま導入できるものではありません。
しかし、病室を単なる「入院する場所」ではなく、患者や家族が一定期間生活する空間として捉える発想は参考になります。
すべての病院で豪華な設備を整える必要はありません。
例えば、家族の付き添いが多い病院ならソファベッドを充実させる。長期入院が多い病院なら収納や冷蔵庫を充実させる。ビジネスパーソンの利用が見込まれる地域なら通信環境や作業用デスクを整える。
患者層や地域のニーズに合わせて、何に価値を感じてもらえるかを考えることが重要です。
5.有料病室の利用率だけでなく「徴収率」を把握する
一方で、設備やサービスの充実だけでは、室料差額収益の改善にはつながりません。
病院では、ベッドコントロールや病状による診療上の必要性、男女別の病室調整などによって、患者が有料個室に入室するケースがあります。
このような場合、患者が自由に有料個室を選択したとは限りません。
厚生労働省の通知でも、治療上の必要性や、実質的に患者の選択によらない場合などには、室料差額を徴収してはならないことが示されています。
そのため、病院では有料病室の利用状況を把握するだけでなく、実際に料金を徴収できているかを管理する必要があります。
例えば、有料個室が10床あり、1日当たりの料金が10,000円だったとします。
30日間すべての病室が利用されていれば、理論上の最大収益は300万円です。
しかし、病院都合による利用などで100床日分が徴収対象外となれば、実際の収益は200万円になります。
この場合、病室の利用率は100%でも、最大収益に対する徴収率は約67%です。
この違いを把握していないと、収益が伸びない原因を正しく分析できません。
6.減免理由と手続きが適切に管理されているか
実務上、もう一つ重要なのが減免の運用です。
病院によっては、室料差額の減免理由や手続きが明確になっていないケースがあります。
例えば、
- 病院都合による入室なのか
- 治療上の必要性による入室なのか
- 患者が希望して入室したのか
- 料金や設備について説明し、同意を得ているか
- 入室後に状況が変わった場合、改めて意思確認しているか
- 減免の理由が記録されているか
といった点です。
本来徴収してはならないケースでは、確実に徴収しない運用が必要です。
一方で、患者が自ら希望し、適切な説明と同意を経て利用しているにもかかわらず、慣習的に減免しているケースがないかも確認する必要があります。
特に、入退院支援部門、病棟、医事課など、複数の部署が関わるため、判断基準を統一しておくことが重要です。
適正な徴収と適正な減免は、どちらも欠かせません。
7.有料病室の見直しは、料金改定だけではない
有料病室の収益改善というと、料金改定が最初に検討されがちです。
しかし、料金を上げる前に確認したいことがあります。
患者が追加料金を支払う理由が、明確になっているか。
通常の個室と有料個室で、広さや設備の違いが分かりにくいのであれば、患者が有料個室を選択する動機は弱くなります。
一方、Wi-Fi、テレビ、冷蔵庫、アメニティ、家具、家族向け設備などの違いが分かりやすければ、料金に対する納得感も高まりやすくなります。
また、設備を追加する際には、その費用対効果も確認する必要があります。
高額な設備を導入するだけでなく、既存の床頭台や入院セットの契約を見直すことで、比較的少ない費用でサービスを充実できる可能性もあります。
病院の規模や地域性によって、有料病室に求められるサービスは異なります。
大切なのは、他院の設備をそのまま導入することではなく、自院の患者層に合った付加価値を考えることです。
8.室料差額収益は「病室の価値」と「適正な運用」の両輪で改善する
有料個室や有料多床室の収益改善には、二つの視点が必要だと考えています。
一つは、患者が納得して選択できる療養環境を整えること。
もう一つは、室料差額の徴収・減免を適切に管理することです。
ホテル業界や航空業界のサービスには、病室の付加価値を考えるうえで参考になる発想が数多くあります。
一方で、病院には医療機関として守るべきルールがあり、患者の自由な選択と同意が大前提です。
料金を上げることだけが収益改善ではありません。
患者が選びたくなる病室をつくり、その利用状況と収益を正しく把握する。
室料差額の見直しも、病院経営改善の重要なテーマの一つではないでしょうか。
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