病院の委託費はなぜ上がる?値上げを招く5つの要因と交渉前に確認すべきこと
病院の委託契約を担当していると、避けて通れないのが委託会社からの値上げ提案です。
清掃、給食、警備、設備管理、医事、臨床検査、リネン、廃棄物、SPD、滅菌など、業務の種類を問わず、委託費の見直しを求められるケースが増えています。
病院としては、厳しい経営環境のなかで、できる限り値上げを抑えたいところです。
しかし、強く交渉しすぎると、
- 現在の条件では契約を継続できない
- 次回の契約更新には応じられない
- 採算の合わない事業所から撤退する
と委託会社から伝えられることもあります。
新たに入札や見積合わせを行っても、参加会社が一社しかない、あるいは一社も手を挙げないケースも珍しくありません。
かつてのように、複数の委託会社を競わせれば価格が下がるとは限らなくなっています。
このような状況では、値上げをすべて拒否することも、提示された金額をそのまま受け入れることも適切ではありません。
まず必要なのは、値上げの原因を分解して確認することです。
本記事では、病院の委託費を押し上げている要因を、次の5つに分けて整理します。
- 人材に関する要因
- 物流・供給に関する要因
- 資材・設備に関する要因
- 制度・品質に関する要因
- 契約・市場構造に関する要因
1.人材に関する要因
病院の委託費に最も大きな影響を与えるのが、人材に関するコストです。
清掃、給食、警備、医事、設備管理、滅菌など、多くの委託業務は、現場に人を配置することで成立しています。
主な値上げ要因には、次のようなものがあります。
- 最低賃金の上昇
- 生産年齢人口の減少
- 採用難
- 採用広告費や人材紹介料の上昇
- 社会保険料や福利厚生費
- 有資格者や現場責任者の不足
- 派遣職員や応援要員への依存
- 教育費や離職対応費
最低賃金の上昇は契約原価へ直接影響する
最低賃金は継続的に引き上げられています。
パート職員や契約職員を多く配置する委託業務では、その影響が委託原価へ直接表れます。
ただし、影響を受けるのは最低賃金付近の職員だけではありません。
新人の賃金を引き上げると、経験者や責任者との賃金差が小さくなるため、既存職員の給与も見直す必要が生じます。
人員配置型の契約では、給与以外にも、
- 賞与
- 法定福利費
- 社会保険料
- 有給休暇
- 深夜割増
- 休日割増
- 時間外手当
などが発生します。
配置人数が多い委託ほど、賃金上昇の影響も大きくなります。
人が採れないこと自体がコストになる
現在の問題は、賃金が上がっていることだけではありません。
募集を出しても、必要な人数が集まらないことが深刻な問題になっています。
病院の委託業務には、
- 早朝勤務
- 夜間勤務
- 土日・祝日勤務
- 患者対応
- 感染リスクのある環境
- 立ち仕事
- 重量物の運搬
など、採用面で不利になりやすい条件があります。
委託会社は人員を確保するために、
- 求人広告を長期間掲載する
- 人材紹介会社を利用する
- 派遣職員を配置する
- 他事業所から応援を出す
- 採用条件を引き上げる
といった対応を取ります。
これらの費用も、最終的には委託原価へ反映されます。
責任者不足と離職も値上げ要因になる
設備管理、給食、医事、滅菌などでは、現場を管理できる責任者が必要です。
資格者の配置を求める場合には、資格手当や責任者手当も発生します。
責任者が退職すれば、他事業所からの応援や本部社員による支援が必要になります。
また、離職率の高い現場では、
- 採用
- 入職手続き
- 制服支給
- 初期研修
- 現場教育
を何度も繰り返すことになります。
欠員を残業や派遣で補えば、さらに原価が上昇します。
人がいないために他事業所から応援を出し、その応援元でも人が足りなくなる。
この悪循環が、委託会社全体のコストを押し上げています。
2.物流・供給に関する要因
病院の委託業務には、物品、検体、食事、リネン、廃棄物などを運搬するものが多くあります。
主な値上げ要因は次のとおりです。
- ドライバー不足
- 労働時間管理の厳格化
- 燃料費の上昇
- 小口・多頻度配送
- 緊急配送
- 荷待ち時間
- 遠隔地への配送
- サプライチェーンの混乱
特に影響を受けやすいのが、
- 臨床検査
- 医療廃棄物
- SPD
- リネン
- 給食
- 院外滅菌
などです。
病院への配送は効率化しにくい
病院では、
- 毎日決まった時間に検体を回収する
- リネンを毎日搬入・搬出する
- 医療廃棄物を定期的に回収する
- 給食材料を高頻度で納品する
- 緊急の診療材料を配送する
といった、小口・多頻度の配送が求められます。
一回当たりの荷物量が少なくても、配送回数が多ければ、車両費、人件費、燃料費は増加します。
さらに、
- 細かな時間指定
- 複数箇所への納品
- 搬入口の混雑
- 検品待ち
- 院内での長い移動距離
などがあれば、配送効率は低下します。
病院側が配送時間や検品方法を見直すことで、物流費を抑えられる場合もあります。
3.資材・設備に関する要因
委託業務には、人件費だけでなく、さまざまな資材や設備が必要です。
主な値上げ要因には、次のものがあります。
- 資機材価格の上昇
- 建築費や修繕費の上昇
- 電気・ガス・燃料費
- 円安
- 半導体や部品の不足
- メーカー保守費の上昇
- 設備の老朽化
資材価格と円安の影響
清掃では、
- 洗剤
- ワックス
- モップ
- ごみ袋
- 手袋
- マスク
- 感染対策用品
などを使用します。
検査では試薬や容器、給食では食材や衛生用品、滅菌では包装材や洗浄剤などが必要です。
海外から輸入される資材も多く、円安や海外の原材料価格上昇の影響を受けます。
委託会社が大量購入で価格を抑えていたとしても、仕入価格の上昇をすべて自社で吸収することは困難です。
病院から見えにくいエネルギーコスト
病院外で処理を行う委託では、電気やガス、燃料費の影響も大きくなります。
例えば、
- 検査センター
- 院外滅菌施設
- リネン工場
- 給食センター
- 廃棄物処理施設
- データセンター
などです。
検査機器、滅菌装置、冷蔵設備、乾燥機、焼却設備などは、多くのエネルギーを使用します。
病院からは見えにくい部分ですが、委託会社の原価には確実に反映されます。
設備更新や建築費も将来の委託費へ影響する
委託会社が新たに検査ラボ、給食センター、物流倉庫などを整備すれば、建築費や設備費が必要になります。
既存施設でも、設備が老朽化すれば、
- 修繕
- 部品交換
- メーカー保守
- 設備更新
などの費用が増えます。
こうした投資は、長期的に委託価格へ反映されます。
4.制度・品質に関する要因
委託会社には、安く業務を行うだけでなく、安全性や品質を確保することも求められます。
主な要因は次のとおりです。
- 法令改正
- 働き方改革
- 感染対策
- 情報セキュリティ
- 教育・研修
- BCP対応
- 保険料
- 記録・報告業務
働き方改革による必要人員の増加
労働時間を適切に管理するためには、従来一人で長時間対応していた業務を、複数人で分担しなければならないことがあります。
特に影響が大きいのは、
- 24時間警備
- 夜間受付
- 給食の早朝勤務
- 設備管理の宿直
- 緊急配送
などです。
必要な勤務枠を維持するため、配置人数を増やす必要が生じます。
感染対策や教育も無料ではない
病院で働く委託職員には、一般企業以上の感染対策や教育が求められます。
業務内容に応じて、
- 感染対策研修
- 個人情報保護研修
- 医療安全研修
- 防護具の使用
- 健康管理
- インシデント報告
などが必要です。
これらは委託サービスの品質を維持するために必要な費用です。
情報セキュリティ対策の負担
医事、システム保守、データ処理などでは、委託会社が患者情報や病院システムへアクセスする場合があります。
そのため、
- 端末管理
- アクセス制御
- ログ管理
- ウイルス対策
- 脆弱性対応
- 職員教育
- インシデント対応
などのセキュリティ対策が必要です。
病院からは直接見えにくいものの、委託会社にとっては無視できないコストです。
5.契約・市場構造に関する要因
値上げの背景には、原材料費や人件費だけでなく、市場環境や契約条件も関係しています。
主な要因は次のとおりです。
- 入札の不落・不調
- 応札会社の減少
- 委託会社の撤退
- 再委託先の値上げ
- 地域寡占
- 業務量減少による単価上昇
- 病院独自の過剰仕様
- 長期契約による価格検証不足
競争環境が働きにくくなっている
入札や見積合わせを行っても、一社しか参加しない、あるいは誰も参加しないことがあります。
委託会社側も、
- 人員を確保できない
- 責任者を配置できない
- 採算が合わない
- 病院独自の仕様が重い
と判断すれば、無理に受注しません。
競争相手がいなければ、病院側の価格交渉力も低下します。
委託会社には「撤退」という選択肢がある
人手不足の状況では、委託会社が赤字の契約を無理に継続する必要性は低くなっています。
採算の悪い病院から撤退し、条件のよい他施設や一般企業へ人員を移すこともできます。
病院にとって委託会社の撤退は大きな問題ですが、委託会社にとっては、一事業所から撤退するという経営判断です。
この立場の違いが、値上げ交渉を難しくしています。
再委託先の値上げ
委託会社が、すべての業務を自社で行っているとは限りません。
例えば、
- 特殊設備点検
- 廃棄物運搬
- 害虫駆除
- システム保守
- 特殊清掃
- 一部の配送
などを別会社へ再委託していることがあります。
再委託先が値上げすれば、元請会社も病院へ価格改定を求めます。
見積書上は「外注費」「管理費」などにまとめられ、背景が見えにくい場合があります。
業務量が減っても単価が下がるとは限らない
患者数や病床数が減れば、委託費も下がるように思えます。
しかし、固定費の大きい委託では、業務量が減るほど、一件当たり、一床当たり、一食当たりの単価が高くなることがあります。
例えば、
- 病床数が減っても24時間警備は必要
- 検査件数が減っても集配車両は必要
- 食数が減っても朝昼夕の調理体制は必要
- 患者数が減っても夜間受付は必要
という契約です。
業務量が減少しても、一定の人員や設備を維持しなければならない場合、単価は上昇します。
病院側の仕様が値上げを招いていることもある
値上げの原因が委託会社側だけにあるとは限りません。
病院独自の仕様や非効率な運用が、コストを押し上げている場合もあります。
例えば、
- 必要以上に多い配置人数
- 細かすぎる時間指定
- 高頻度の配送や回収
- 夜間や休日の常時対応
- 独自様式の報告書
- 他院では行っていない付帯業務
- 短時間勤務の複雑な組み合わせ
などです。
以前は必要だった仕様が、現在の患者数や病院機能に合っていない可能性もあります。
値上げ提案を受けたときは、病院側の仕様を見直す機会でもあります。
値上げ提案を受けたときに確認したいこと
委託会社から、
「人件費が上がったため」
「物価が上昇しているため」
と説明されても、それだけで判断してはいけません。
少なくとも、次の点を確認したいところです。
- どの費用が上昇したのか
- いつから上昇したのか
- 上昇額と上昇率はいくらか
- 自院の契約へどの程度影響するのか
- 一時的な要因か、継続的な要因か
- 委託会社側で吸収した費用はあるか
- 前回の値上げと重複していないか
- 病院側の仕様変更で抑えられないか
- 配置人数や業務量は変化しているか
例えば、人件費が理由であれば、
- 対象となる職員数
- 賃金上昇額
- 法定福利費の増加
- 欠員や派遣の状況
を確認します。
燃料費が理由であれば、
- 配送回数
- 走行距離
- 車両台数
- 緊急配送の件数
を確認します。
資材費が理由であれば、対象となる品目と使用量を確認します。
値上げ要因を分解することで、妥当な部分と交渉できる部分を区別できます。
病院側で見直せることはないか
値上げの理由が妥当であっても、提示額をそのまま受け入れる必要はありません。
病院側で、次のような見直しができないか検討します。
- 業務範囲を見直す
- 配置人数や時間帯を見直す
- 配送・回収回数を減らす
- 過剰な報告業務を減らす
- 病院側で一部資材を調達する
- 設備やシステムを導入する
- 複数の契約をまとめる
- 繁忙時間に合わせた配置へ変更する
- KPIを設定して生産性を改善する
ただし、委託費を下げるために、業務を病院職員へ戻す場合は注意が必要です。
委託費が下がっても、看護師や事務職員の残業が増えれば、病院全体としてはコスト削減になりません。
委託費だけでなく、院内職員の業務量や患者サービスへの影響まで含めて判断する必要があります。
値上げを認めることと、検証しないことは違う
現在の人手不足や物価上昇を考えれば、一定の値上げが避けられない契約もあります。
委託会社へ原価上昇のすべてを吸収させ続ければ、
- 欠員の放置
- 経験者の配置減少
- 教育不足
- 品質低下
- 契約からの撤退
につながる可能性があります。
一方で、根拠を確認せず、提示された金額をそのまま受け入れることも適切ではありません。
重要なのは、
値上げを認めるかどうかではなく、値上げの中身を検証したかどうか
です。
妥当な部分は認め、過剰な部分は交渉する。
病院側で見直せる仕様や運用があれば改善する。
そのうえで、委託会社が必要な人材を確保し、安定したサービスを提供できる契約にすることが重要です。
まとめ
病院の委託費が上がる背景には、単なる物価上昇だけでなく、次の5つの要因があります。
- 人材に関する要因
- 物流・供給に関する要因
- 資材・設備に関する要因
- 制度・品質に関する要因
- 契約・市場構造に関する要因
委託費の交渉は、提示額をどれだけ値下げさせるかだけではありません。
必要なのは、
- 値上げ要因を分解する
- 原価を見える化する
- 病院側の過剰仕様を見直す
- 委託会社の生産性改善を促す
- 撤退や品質低下のリスクも考える
ことです。
値上げ提案は、病院にとって負担である一方、長年変えていなかった契約や運用を見直すきっかけにもなります。
単に受け入れるか拒否するかではなく、値上げの背景を丁寧に検証し、病院と委託会社の双方にとって持続可能な契約をつくることが重要です。
「自院の契約が適正か分からない」「他院との比較をしてみたい」という方向けに、契約内容や見積書の簡易診断、病院向け講演・研修、顧問相談も承っています。お気軽にお問い合わせください。

